photo ピグミーシーホース
生涯、枝になりきって

-
 ピグミーシーホースは世界最小のタツノオトシゴの一種だ。
 インドネシアのスラウェシ島北東端・レンベ海峡の海底は、火山灰が泥のように積もり、薄暗い。きれいな海とはいえないが、変わった生き物が生息する不思議な場所である。
 水深30メートル。ピグミーシーホースは、宿主であるウミウチワの枝につかまって一生を過ごす。体長8ミリ、小指のツメほどしかない。暗く深い海底に身を隠すため、色も形もウミウチワにそっくりで、肉眼ではどこにいるのかわからない。
 しつこく照らした水中ライトの光を嫌がって、枝に巻き付けた尾が離れ、ふわりと移動した。
 小さな生き物たちの生涯は、危険に満ちているが、擬態という手段で捕食者たちの目をごまかし、生き残ってきた。この生物を、人間も長い間見つけることができなかった。